「東京は給料が高いけど、物価も高いから結局同じ」
上京を考えている人も、すでに東京で働いている人も、一度は聞いたことがある言葉だと思います。なんとなく納得してしまう話ですが、実際のところはどうなのでしょうか。
この記事では、公的な統計から実際の金額を並べて、東京で働くと手元にいくら残るのかを見ていきます。指数や比率ではなく、月にいくら入って、何にいくら出ていくのかという実額です。
先に結論を言うと、東京で働く世帯は全国平均より月5万5,000円ほど多く手元に残しています。ただし、それは家賃を除いた話です。実際に部屋を借りる場合、その差の半分以上が家賃で消えます。
なお、この記事は働く街ごとの年収と生活費を見ていくシリーズの第1回です。今後、関西や中京圏、九州などのエリアも同じ項目で取り上げていきます。
東京の平均賃金は、月40万3,700円
まず賃金から確認します。
厚生労働省の令和6年賃金構造基本統計調査によると、東京都で働く人の平均賃金は月40万3,700円でした。これは6月分として支払われた所定内給与額の平均値で、残業代や賞与は含まれていません。基本給に各種手当を加えた金額だと考えてください。
同じ調査の全国平均は月33万400円です。東京はこれを22%上回っており、金額にすれば月7万3,300円の差になります。
さらに、全国平均を超えている都道府県は東京都、神奈川県、愛知県、大阪府の4都府県しかありません。それ以外はすべて全国平均を下回っています。
つまり、同じ経験、同じスキルを持っていても、働く場所によって提示される金額は変わります。地方で年収が頭打ちだと感じている人にとって、勤務地を変えることは年収を上げる手段のひとつになりえます。
ただし、これは都道府県全体の平均です。業種や企業規模によって実際の水準は大きく変わります。全国のデータで見ると、大企業と小企業では月に6万円以上の開きがありますし、業種別では最も高い電気・ガス・熱供給・水道業と最も低い宿泊業・飲食サービス業で月15万円以上の差があります。東京で働いているからといって、全員が40万3,700円を受け取っているわけではありません。
世帯の手取りは、月63万7,958円
次に、世帯全体で見ていきます。ここからは総務省の家計調査(2024年)を使います。
以下の数字は、二人以上の勤労者世帯を対象にしたものです。世帯主の平均年齢は50歳前後、世帯人員は約3人。共働きであれば配偶者の収入も含まれます。単身世帯の数字ではないので、その前提で読んでください。
東京都区部の勤労者世帯の実収入は月79万4,180円でした。全国平均は月63万6,155円なので、東京は月15万8,025円多い計算になります。
ここから税金と社会保険料を差し引いた可処分所得、いわゆる手取りを見ると、東京都区部が月63万7,958円、全国平均が月52万2,569円。差は月11万5,389円です。年額にすれば138万円ほどになります。
収入が多いぶん税や社会保険料の負担も増えるため、手取りベースでの差は実収入の差より小さくなります。ここは意外と見落とされる点です。
手元に残るのは、月25万7,410円
では、その手取りからいくら使い、いくら残っているのか。
東京都区部の勤労者世帯の消費支出は月38万548円。全国平均は月32万5,137円なので、東京は月5万5,411円多く使っています。
手取りから消費支出を引いた金額、つまり貯蓄や投資に回せる金額を計算すると、東京都区部は月25万7,410円、全国平均は月19万7,432円。差は月5万9,978円です。年額にすれば72万円ほどになります。
ここまでの数字を整理すると、東京は収入が月15万8,025円多く、手取りで月11万5,389円多く、支出が月5万5,411円多い。差し引きすると、手元に残る金額は月約6万円多いという結果です。
「東京は給料が高いけど物価も高いから結局同じ」という言葉は、この数字を見るかぎり正確ではありません。支出は確かに多いのですが、収入の増え方のほうが大きい。
ただし、この計算にはまだ抜けているものがあります。家賃です。
東京で部屋を借りると、月9万4,802円
家計調査の数字には、実は家賃の実態が十分に表れていません。持家の世帯が平均に含まれているためです。持家の人は家賃を払わないので、家賃ゼロとして計算に入ってしまいます。
賃貸で暮らす人の家賃を知るには、別の統計を見る必要があります。総務省の住宅・土地統計調査です。
この調査によると、東京都の民営借家(専用住宅)の1か月あたり家賃は9万4,802円でした。全国平均は6万5,496円なので、東京はこれを1.45倍上回っています。金額にすれば月2万9,306円、年間で35万円ほどの差です。
先ほど、東京では手元に残る金額が月約6万円多いと計算しました。ところが賃貸で暮らす場合、家賃だけで月2万9,306円が余分にかかります。つまり、その差の半分が家賃で消える計算になります。
近隣の県と比べると、東京の水準はさらに際立ちます。神奈川県は7万6,356円、埼玉県は6万5,848円、千葉県は6万5,813円。埼玉と千葉は全国平均とほぼ同じ水準で、東京とは月3万円近い開きがあります。都県境を越えるだけで、家賃は大きく変わるということです。
ただし、この9万4,802円は東京都全体を均した平均値です。23区内と多摩地域では水準が違いますし、同じ23区でも都心部と周辺部では大きく異なります。物件の広さ、築年数、駅からの距離によっても変わります。都心の物件であれば、この平均を大きく超えるのが普通です。
実際に部屋を探すときは、この平均値ではなく、住みたい地域の相場を個別に確認してください。ここで示した数字は、都県ごとの水準を比べるための目安です。
東京で高いもの、安いもの
支出の中身も見ておきます。
金額の差が最も大きいのは食料でした。東京都区部の勤労者世帯が月10万4,570円、全国平均が月8万7,954円。差は月1万6,616円です。外食の価格も食材の価格も、東京は全国平均より高い水準にあります。
次に大きいのが教育で、東京都区部が月2万8,763円、全国平均が月1万8,456円。差は月1万307円です。子どもの教育にかける金額が、東京では明確に多くなっています。
一方で、東京のほうが安い費目もあります。光熱・水道は東京都区部が月2万259円で、全国平均の月2万2,756円より2,497円安い。交通・通信も東京都区部が月4万7,784円で、全国平均の月5万28円より2,244円安くなっています。
交通費が安いのは、公共交通機関が発達していて車を持たない世帯が多いためだと考えられます。光熱費が安いのは、集合住宅が多く一戸あたりの面積が小さいこと、そして冬の暖房需要が寒冷地より小さいことが影響しているのでしょう。
整理すると、東京で全国平均より高いのは食料、教育、そして家賃。安いのは光熱費と交通費ということになります。
だから、家賃をどう抑えるかで結果が変わる
ここまでの数字から見えてくるのは、東京で手元にお金を残せるかどうかは家賃の設定でほぼ決まる、ということです。
手元に残る金額は全国平均より月約6万円多い。しかし家賃は月2万9,306円高い。差し引きで月3万円ほどの余裕という計算になります。ここで家賃をさらに上げれば、余裕は簡単に消えます。
家賃を抑える方法はいくつかあります。
都心から距離を取るのは、最も効果が大きい選択です。埼玉県や千葉県の家賃は全国平均並みで、東京都より月3万円近く安い。ただし通勤時間という代償があるので、増えた可処分所得と失った時間を天秤にかける必要があります。
住宅手当や家賃補助がある会社を選ぶという方法もあります。これは東京では特に効きます。月3万円の家賃補助は年間36万円で、額面を数十万円上げるのと同等かそれ以上の効果を持つ場合があります。求人票の年収だけを見て比較すると、この部分が抜け落ちます。
社宅や借り上げ社宅の制度がある会社なら、負担はさらに軽くなります。転職の条件を比較するときは、年収に加えてこうした制度の有無を確認しておくと、実際の手取り感が変わってきます。
数字に表れない、東京で働くこと
ここまでは金額の話でしたが、東京で働く意味は賃金だけではありません。
求人の数と種類が多いことは、キャリアの選択肢に直結します。特定の職種や業界に絞って転職しようとしたとき、地方では選択肢が数社しかないという状況が起こりますが、東京では比較しながら選べます。転職市場が厚いということは、条件が合わなければ他を探せるということでもあります。
同業の人と接する機会が多いことも、専門性を高めるうえでは効きます。勉強会やコミュニティ、社外の知人との接点は、東京のほうが作りやすいでしょう。
一方で、差し出しているものもあります。通勤時間はその代表です。片道1時間の通勤なら、往復で1日2時間。年間240日として480時間になります。1日24時間で割れば20日分です。
住まいの広さも見落とされがちです。同じ家賃で借りられる面積は、東京と地方でまるで違います。在宅勤務が定着した人にとっては、この差が生活の質に直結します。
人の多さによる疲労も、数字には表れない負荷です。満員電車、行列、混雑した休日。これらを許容できるかどうかは人によります。
つまり東京で働くことは、収入と選択肢を得る代わりに、家賃と時間と静けさを差し出す取引です。どちらが得かは、その人が何を大事にするかで変わります。
自分の場合は、どうなるか
最後に、自分に当てはめて考える方法を書いておきます。
まず、いまの手取りと家賃を書き出して、家賃が手取りに占める割合を計算します。一般には手取りの3割以内が目安とされますが、東京では4割近くになっている人も珍しくありません。この割合が高いほど、東京の高い賃金が家賃に流れていることになります。
次に、転職や引っ越しを考えるときは、年収だけでなく住宅関連の制度を含めて比較します。家賃補助が月3万円あるA社の年収500万円と、補助がないB社の年収530万円では、実質的にはA社のほうが手元に残る場合があります。
そのうえで、通勤時間をどこまで許容するかを決めます。家賃を月2万円下げる代わりに通勤が20分延びるなら、その交換に納得できるか。ここは自分の生活の優先順位次第です。
もう一つ、意外と見落とされるのが「いつまでその条件で暮らすか」という視点です。独身のうちは家賃を抑えて狭い部屋でも問題ないかもしれませんが、家族が増えれば必要な広さは変わります。東京の教育費が全国平均より月1万円以上高かったことを思い出せば、子育て期に入ってからの負担も見えてきます。
逆に言えば、いま単身で家賃を抑えられる状況なら、東京で働く金銭的なメリットを最大化しやすい時期だとも言えます。
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まとめ
東京で働く人の平均賃金は月40万3,700円で、全国平均の月33万400円を7万3,300円上回っています。
世帯で見ると、東京都区部の勤労者世帯は手取りが月63万7,958円で全国平均より月11万5,389円多く、消費支出は月38万548円で月5万5,411円多い。手元に残る金額は月25万7,410円と、全国平均より約6万円多い計算です。
ただし賃貸で暮らす場合、東京都の家賃は月9万4,802円で全国平均より月2万9,306円高くなります。手元に残る差の半分が、家賃で消える計算です。
支出の内訳では、食料が月1万6,616円、教育が月1万307円それぞれ全国平均より高く、逆に光熱・水道と交通・通信は東京のほうが安くなっています。
「東京は給料が高いけど物価も高い」は、間違ってはいません。ただ、収入の増え方のほうが支出の増え方より大きいというのが数字の示す実態です。そのうえで、その差を家賃で使い切るかどうかは、住まいの選び方しだいになります。
よくある質問
Q. 東京の平均年収はいくらですか?
厚生労働省の令和6年賃金構造基本統計調査によると、東京都で働く人の平均賃金は月40万3,700円です。これは6月分の所定内給与額の平均値で、残業代や賞与は含まれていません。全国平均は月33万400円なので、東京はこれを約22%上回っています。全国平均を超えているのは東京都、神奈川県、愛知県、大阪府の4都府県のみです。
Q. 東京で暮らすと、生活費はいくらかかりますか?
総務省の家計調査(2024年)によると、東京都区部の二人以上の勤労者世帯の消費支出は月38万548円です。全国平均は月32万5,137円なので、月5万5,411円多い計算になります。ただしこれは世帯主の平均年齢50歳前後、世帯人員約3人の世帯の数字であり、単身世帯の支出額とは異なります。
Q. 東京で部屋を借りると家賃はいくらですか?
総務省の令和5年住宅・土地統計調査によると、東京都の民営借家(専用住宅)の1か月あたり家賃は9万4,802円です。全国平均は6万5,496円なので、東京はこれを1.45倍上回っています。神奈川県は7万6,356円、埼玉県は6万5,848円、千葉県は6万5,813円で、埼玉・千葉は全国平均とほぼ同水準です。ただしこれは都県全体を均した平均値であり、23区内と多摩地域、都心部と周辺部では大きく異なります。
Q. 東京で特に高い費目は何ですか?
家計調査の勤労者世帯で見ると、金額の差が最も大きいのは食料で、東京都区部が月10万4,570円、全国平均が月8万7,954円と、月1万6,616円の差があります。次いで教育が月1万307円の差です。これに加えて、賃貸で暮らす場合は家賃が全国平均より月2万9,306円高くなります。
Q. 結局、東京で働くと手元にお金は残りますか?
平均値で比べるかぎりは残ります。東京都区部の勤労者世帯は、手取りから消費支出を引いた金額が月25万7,410円で、全国平均の月19万7,432円より約6万円多くなっています。ただし賃貸で暮らす場合は家賃が月2万9,306円高いため、その差の半分は相殺されます。家賃をどこまで抑えるかによって結果は大きく変わります。
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出典
令和6年賃金構造基本統計調査(厚生労働省・2025年3月17日公表/10人以上の常用労働者を雇用する民営事業所)
家計調査 家計収支編 二人以上の世帯 詳細結果表 年次2024年 第1-1表 勤労者世帯(総務省統計局・2025年2月7日公表/都市階級・地方・都道府県庁所在市別)
令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計 第112-2表(総務省統計局・2024年9月25日公表/民営借家(専用住宅)の1か月当たり家賃)
