家がそろそろ欲しい。そう思いながら、転職を我慢している人は多いはず。
「家を買うなら、転職は控えたほうがいい」
「住宅ローンには勤続3年が必要らしい」
こうした常識を信じて、本当は変えたい仕事を続けたまま、家のことも仕事のことも、両方とも先送りにしている。
もし心当たりがあるなら、この記事はあなたのためのものです。
先に結論を言います。家のために転職を我慢するのは、多くの場合、損な選択です。
よく言われる「勤続3年」の基準は実態とかなりズレていますし、我慢して待つあいだに、もっと確実に効いてくる別の条件が悪化していきます。
そして、住宅ローンの審査で本当に重く見られているのは、勤続年数よりも年収のほうです。
いま、金利は上昇局面に入っています。
住宅ローンを新規で借りる人の8割超は、金利が低い代わりに将来上がる可能性のある変動金利型を選んでいます。
国土交通省の調査でも、新規貸出額の83.5%が変動金利型で、全期間固定金利型のフラット35などは全体の5%ほどです。
金利のことも、転職のことも、同時に考えなければいけない。
悩みが多い時期だからこそ、まず「転職すると家が買えない」という思い込みを、公的なデータで一度分解してみましょう。
「勤続3年ないと家は買えない」は、実態とズレている
まず、金融機関が住宅ローンを審査するとき、何を見ているのか。
国土交通省が毎年実施している「民間住宅ローンの実態に関する調査」に、その答えがあります。全国の銀行・信用金庫・信用組合・農協などが回答するもので、最新の令和7年度調査は2026年3月に公表されました。
この調査で、融資を行う際の審査項目として挙げた機関の割合を見ると、勤続年数は93.9%。たしかに9割を超える機関が、勤続年数を見ています。
「転職すると不利になる」という話は、この数字を根拠にしています。
ただ、ここで止まらずに、内訳まで踏み込むと景色が変わります。
勤続年数を審査項目とした機関に、具体的に何年を基準にしているかを尋ねた結果を見ると、最も多いのは「1年以上」でした。群を抜いて多く、「3年以上」を基準にしている機関は、勤続年数を見る機関の中でも1割強にとどまります。
つまり、「勤続3年ないとローンは組めない」という通説は、実態とかなりずれています。
多くの機関が求めているのは、3年ではなく1年。転職してから1年勤めていれば、勤続年数の面では多くの機関の入り口に立てる、というのが実際のところです。
もう一つ押さえておきたいのは、審査のされ方です。
同じ調査で、申込者のデータを項目ごとに点数化して合否を決める「スコアリング方式」で審査していない機関が、約6割にのぼります。これは、勤続年数という一項目だけで機械的に切られるのではなく、年収や返済の負担割合、他の借入状況などを含めて、人の目で総合的に判断している機関が多いということを意味します。この「総合判断」という点は、あとでもう一度出てきます。
そもそも勤続年数を問わない選択肢もある
ここまで見てきた勤続年数のデータは、民間の金融機関が答えたものです。そして、いま多くの人が選んでいる変動金利型の住宅ローンは、この民間金融機関が独自に提供しているもの。
つまり「変動でも、多くの機関の勤続基準は3年ではなく1年」というのが、調査から言える事実です。
変動を選ぶうえでも、転職して1年勤めていれば、多くの機関の入り口には立てます。
一方で、勤続年数を申込みの要件にしていない住宅ローンもあります。全期間固定金利型のフラット35です。
フラット35の申込要件は公式に公表されていて、3つだけです。
申込時の年齢が満70歳未満であること、日本国籍または永住許可などを持っていること、そして年収に占める年間返済額の割合(総返済負担率)が基準以下であること。
この基準は、年収400万円未満なら30%以下、400万円以上なら35%以下です。どこにも勤続年数はありません。
転職直後でも、勤務先が発行する収入証明の金額を支給月数で割り戻して年収とみなす取扱いが、公式に定められています。
整理すると、
変動金利型は、金利が低い代わりに将来上がる可能性があり、勤続年数は審査項目に入るものの多くの機関の基準は1年。
フラット35は、金利は変動より高めですが全期間固定で先まで読め、そもそも勤続年数の要件がなく転職直後でも申し込み可能。
言い換えると、選択肢は勤続年数の残り時間で変わります。
転職して間もなく、とにかく今すぐ家の話を進めたいなら、勤続年数を問わないフラット35という手がある。1年ほど勤める余裕があるなら、金利の低い変動も選べる。「勤続年数が短いから家は無理」ではなく、「今の勤続年数だと、選べるローンの種類がこう変わる」というだけの話なのです。
住宅ローンで本当に効くのは、勤続年数より年収
ここがとても大事で伝えたいところです。
転職すると勤続年数はリセットされます。これは事実です。けれど、審査で見られているのは勤続年数だけではありません。
先ほどの国交省調査で、審査項目として挙げられた割合をもう一度見てください。年収は94.2%と、勤続年数の93.9%を上回っています。さらに、雇用形態を審査項目とする機関は70.6%あり、その内訳を見ると、派遣社員を対象外とする機関や、契約社員を対象外とする機関が一定数あります。
これが何を意味するか。借りられる金額は、年収で決まります。総返済負担率とは、年収に占める1年間のローン返済額の割合のことで、この割合が基準以下に収まっているかを見る仕組みですから、年収が上がれば、その分だけ借入可能額の上限も上がります。つまり、正社員として年収が上がる転職であれば、勤続年数はいったんリセットされる一方で、年収と雇用の安定性という、審査でより重く見られる部分は、むしろプラスに働きうるということです。
具体的なイメージで考えてみます。以下は説明のための仮の例です。年収400万円で契約社員だった人が、転職して年収450万円の正社員になったとします。勤続年数はゼロからのスタートになりますが、審査で重く見られる年収は上がり、雇用形態も対象外とされにくい形に変わっています。数字のうえで見れば、この転職は住宅ローンにとって必ずしもマイナスではなく、むしろ借入の土台を整える動きになりえます。
「転職は家購入の敵」だと思い込むと、動けなくなります。けれど、下がる変数(勤続年数)と、上がりうる変数(年収・雇用形態)を分けて見れば、年収を上げる転職はむしろ家の味方になりうる。これが、勤続年数ばかり気にしている人に、いちばん伝えたい反転です。
我慢して待つほうが、むしろ損をする?
それでも「念のため勤続3年になるまで待とう」と考える人がいます。けれど、その「3年」という基準の根拠は、ここまで見てきたとおり、それほど強くありません。そして待つことには、見落とされがちな代償があります。
国交省の同じ調査では、借入時の年齢を審査項目とする機関が96.2%、完済時の年齢を審査項目とする機関が98.4%にのぼります。完済時年齢の基準としては「80歳未満」を挙げる機関が最も多くなっています。
住宅ローンは、完済する年齢から逆算して、借りられる期間が決まります。たとえば完済時の上限が80歳未満だとすると、45歳で借りる人が最長で組める返済期間は、35歳で借りる人より10年短くなります。返済期間が短くなれば、同じ金額を借りても毎月の返済額は重くなる。つまり、家を買う年齢が上がるほど、組めるローンの条件は少しずつ厳しくなっていきます。
余談ですが、最近は返済期間を40年、50年と長くとれる住宅ローンも登場しています。毎月の返済額を抑えられるのが利点ですが、期間を延ばすほど完済時の年齢は上がるので、結局この完済時年齢の基準に引っかかりやすくなります。長く借りられるからといって、買う時期を先送りしてよい理由にはなりません。
ここが大事な点です。「勤続年数が足りないから」という、根拠のあいまいな理由で数年待つあいだに、年齢という、もっと確実に効いてくる条件のほうが動いてしまう。しかも年齢は、勤続年数と違って、自分の努力では止められません。我慢して待つことには、はっきりと代償があるのです。
じゃあ、どういう順番で動けばいいか
ここまでで、「家のために転職を我慢しなくていい」ことは見えてきたと思います。
では、実際にどういう順番で動けばいいのか。状況によって、おすすめの型は変わります。
今の会社に決定的な不満はなく、それより家を急ぎたいなら、いまの勤務先にいるうちに住宅ローンを実行まで終わらせて、それから転職を考える。これがいちばん引っかかりの少ない順番です。
転職の気持ちが固まっていて、今すぐ動きたいなら、勤続年数を問わないフラット35を軸に考えるか、転職後の収入実績が積み上がるのを待ってから借りる。転職を先送りしない代わりに、ローンの種類やタイミングを合わせにいく形です。
年収が上がる転職ができそうなら、いっそ転職を先にして、年収を上げてから借りるという手もあります。前のセクションで見たとおり、借入可能額は年収で決まるからです。
そして、どの順番を選ぶにしても共通する注意が一つあります。
事前審査から融資実行までの間に勤務先を変えないことです。
審査は申込時の勤務先や年収を前提に進むので、実行前に転職するとその前提が変わり、審査をやり直すことになる可能性があります。
ローンを実行し終わったあとの転職とは、意味がまったく違います。取扱いは金融機関ごとに異なるので、購入と転職の時期が重なりそうなら、事前に金融機関へ相談しておくと安心です。
もう一つ、我慢しなくていいと言ったうえで、あえて釘を刺しておきたいことがあります。
転職はして大丈夫。ただし、短い在籍を何度も繰り返すのは別の話です。
住宅ローンは、十数年から数十年にわたって返し続けてもらう前提のものなので、貸す側は「この人が働き続けて、返し続けられるか」を見ています。
審査の6割が人による総合判断だったことを思い出してください。
勤続1年という基準を形式的に満たしても、短い在籍を繰り返した職歴だと、人の目で見たときに「続けられるのか」という懸念を持たれかねません。
これはキャリアの側面で見ても同じで、短期離職の繰り返しは職務経歴の説明を難しくし、次の年収や雇用形態を下げる方向に働きえます。採用の現場を見ていても、それは感じます。
転職そのものは不利になりませんが、短期で転職を繰り返すと、家とキャリアの両方で足を引っ張る。一回一回を、腰を据えて選ぶことが大切です。
順番を決める前に、やっておくべき一つのこと
ここまで見てきたとおり、どの順番で動くにしても、最終的に効いてくるのは次の会社での年収です。そして、その年収や雇用形態を左右するのは、あなたの経験が採用担当にどれだけ正確に伝わるか。同じ経歴でも、伝わり方ひとつで、提示される条件は変わってきます。
だとすれば、順番をあれこれ考える前に、まずやっておくべきことは決まっています。
これまでの仕事を棚卸しして、経験を企業に伝わる言葉に整えておくことです。
それができていれば、いざ動くときに、年収や雇用形態という「家にも効いてくる条件」を、より良い形で引き寄せやすくなります。
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転職を「いつか」で止めている段階でも、経歴を先に整理しておけば、家のことも仕事のことも、動きたいタイミングで動ける状態を先につくれます。
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まとめ
「家を買うなら転職はしないほうがいい」という常識は、もう古くなっています。勤続年数を見る金融機関は9割を超えますが、多くの基準は3年ではなく1年で、フラット35には勤続年数の要件そのものがありません。そして審査で本当に重く見られているのは、勤続年数よりも年収です。年収が上がる転職なら、勤続のリセットを差し引いても、家にとってプラスになりえます。
むしろ、家のために転職を我慢して待つほうが、年齢という取り返しのつかない条件を悪化させる分、損をしやすい。やるべきは我慢ではなく、年収が上がる転職を、正しい順番で進めることです。ただし、短期離職の繰り返しは家でもキャリアでも信用を損なうので、一回一回を腰を据えて選ぶ。その前提さえ守れば、家と仕事は、どちらかを諦める話ではなくなります。
よくある質問
Q. 勤続年数が何年あれば住宅ローンは組めますか?
一律の基準はありません。国土交通省の調査では、勤続年数を審査項目とする機関のうち最も多い基準は「1年以上」で、「3年以上」を求める機関は1割強にとどまります。全期間固定金利型のフラット35には、そもそも勤続年数の要件がありません。ただし審査は年収や返済負担率など複数の項目を総合して判断されるため、勤続年数だけで合否が決まるわけではない点に注意してください。
Q. 転職した直後でも住宅ローンを申し込めますか?
フラット35は転職直後でも申し込めます。勤務先が発行する転職後の収入証明の金額を、支給された月数で割り戻して年収とみなす取扱いが公式に定められています。転職から申込日までに12か月以上の給与を受け取っている場合は、その実額が年収とみなされます。民間の金融機関については、勤続年数の基準や取扱いが機関ごとに異なるため、個別に確認するのが確実です。
Q. 転職を考えていますが、変動金利とフラット35のどちらがいいですか?
金利の考え方や家計の状況によるため一概には言えませんが、勤続年数の観点では性格が異なります。変動金利型は民間金融機関が提供するもので、多くの機関が勤続年数を審査項目にしています(最多の基準は1年)。フラット35は全期間固定金利型で、勤続年数の要件がなく転職直後でも申し込めます。今すぐ進めたいならフラット35、1年ほど勤める余裕があり金利の低さを重視するなら変動、という整理ができます。金利タイプそのものの選び方は、金融機関やファイナンシャルプランナーにも相談してみてください。
Q. ローンの審査中に転職したらどうなりますか?
事前審査から融資実行までの間に勤務先が変わると、申告や再審査の対象になりうるため注意が必要です。審査は申込時の勤務先や年収を前提に進むので、その前提が変わると審査をやり直すことになる可能性があります。ローンを実行し終わったあとの転職とは意味が異なります。取扱いは金融機関ごとに違うため、購入と転職の時期が重なりそうなときは、事前に金融機関へ相談しておくと安心です。
Q. 短期間で転職を繰り返すと、住宅ローンに影響しますか?
影響しうると考えておいたほうがいいでしょう。住宅ローンは長期にわたって返済が続く前提のもので、審査には人による総合判断の余地が残っています。勤続年数の基準を形式的に満たしていても、短い在籍を繰り返した職歴だと、返済を続けられるかという安定性の面で懸念を持たれる可能性があります。転職そのものは不利になりませんが、短期での繰り返しは避け、一回一回を腰を据えて選ぶことをおすすめします。
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出典
民間住宅ローンの実態に関する調査(令和7年度)結果報告書(国土交通省住宅局・2026年3月/審査項目設問の回答994機関)
フラット35 よくある質問(住宅金融支援機構)
2024年度 フラット35利用者調査(住宅金融支援機構・2025年7月25日公表/借換えを除く27,523件)
