この夏、「大手企業の夏のボーナスが初めて平均100万円を超えた」というニュースを見た人もいるかと思います。
一方で、自分の支給額と見比べて、静かに落ち込んだ人もいるのではないでしょうか。
ボーナスは、金額の多い少ないにかかわらず、年に2回、自分の働きに対する会社の評価を数字で突きつけられるイベントです。だからこそ、この時期は気持ちが揺れます。
そして、明細を眺めながら「もらってから辞めようかな」が頭をよぎった人へ。
その考えは、ずるくも非常識でもありません。データで見ると、転職を考えている人の多数派の行動です。
この記事では、賞与と転職の関係を一次データで整理します。
ニュースの「平均100万円」の正体、そもそも賞与が出ない会社の割合、もらってから辞める人の実際の割合、そして支給を待つ時間の使い方まで、順に見ていきます。
ニュースの「平均100万円」の正体
2026年7月2日、経団連が発表した夏季賞与の第1回集計で、平均妥結額は100万8,706円となりました。前年比1.88%増で、比較可能な1981年以降、初めて100万円を超えています。
ただし、この数字には前提があります。
調査対象は、原則として従業員500人以上の主要23業種の大手248社。そのうち妥結額を集計できた112社の平均です。つまり、日本でも特に規模の大きい会社の、労使交渉で妥結した金額を集計した数字です。
しかも、その大手の中でも差は大きく開いています。業種別では、データセンター向け需要などで業績が伸びた非鉄・金属が112万5,131円(前年比18.01%増)だった一方、自動車は99万7,155円で前年比8.97%減でした。
経団連の集計は速報性が高く、毎年夏のボーナス報道の定番ですが、あくまで「日本で最も条件の良い一角」を映した数字だと理解しておくのが正確です。
一方、厚生労働省の毎月勤労統計調査で2025年の夏季賞与を見ると、賞与を支給した事業所における労働者1人あたりの平均は42万6,337円でした。
さらに、20〜50代の正社員18,464人に聞いたマイナビの調査では、2025年夏に受け取った賞与は平均54.4万円、2026年夏の予想額は平均55.2万円です。
「夏のボーナスの平均」は、どこを集計するかで100万円にも42万円にもなります。
ニュースの見出しと自分の額を比べて落ち込む必要はありません。比べるなら、自分と同じ規模・業種の水準と比べるのが妥当です。
この「比べる相手」の話は、記事の後半でもう一度出てきます。
そもそも、夏の賞与が出ない事業所が約4分の1あります
厚生労働省の同じ統計を労働政策研究・研修機構(JILPT)が解説した記事によると、2025年に夏季賞与を支給した事業所の割合は73.4%でした。
裏を返せば、約4分の1の事業所では、夏の賞与そのものが支給されていません。
この統計では、賞与を支給しなかった事業所も含めた全労働者1人あたりの平均も参考として公表されており、こちらは36万681円です。
「働く人全体の平均」で見ると、ニュースの100万円の3分の1近くまで下がります。
支給されている場合でも、業種による差はかなり大きいのが実態です。産業別の平均支給額(2025年夏・支給事業所ベース)を見てみます。
情報通信業:78万8,065円
金融業・保険業:72万1,295円
建設業:59万4,412円
製造業:58万8,660円
卸売業・小売業:37万9,774円
医療・福祉:28万2,108円
飲食サービス業等:7万8,097円
ここに挙げた中で最も高い業種と低い業種では、約10倍の開きがあります。
賞与の額は、個人の頑張りだけでなく、「どの業種・どの規模の会社にいるか」という構造で大きく決まっています。
だからこそ、賞与への不満は「自分の能力が低いせいだ」と自分を責める話ではなく、「いまいる場所の構造」の話として捉えたほうが、次の判断につながります。
「もらってから辞める」は多数派の行動です
では、賞与にモヤモヤした人は、実際どう動いているのでしょうか。
マイナビが転職を検討している正社員1,366人に聞いた調査(2025年6月発表)では、58.3%が「今年の夏の賞与をもらってから転職する予定」と回答しました。年代別では20代が66.4%で最多です。
冬も同じです。2025年11月発表の調査では、転職を考えている正社員の2人に1人が「冬のボーナスをもらってから転職する予定」と答えています。
転職を考えている人の半数以上が「もらってから動く」を選んでおり、これは季節を問わず繰り返される定番の行動パターンです。
そもそも賞与は一般に、対象期間の勤務に対する報償や賃金の後払いとしての性質を含むと説明されることが多い給与です。すでに働いた分を受け取ってから次に進むことは、制度の趣旨から見ても後ろめたいことではありません。
実際、賞与は転職理由としてもありふれています。
同じ調査で、転職経験のある人の69.1%が「賞与が少ない」ことを理由に転職した経験があると答えました(「1番大きな転職理由だった」32.1%と「1番ではないが転職理由だった」37.0%の合計)。20代にいたっては、「1番大きな転職理由だった」だけで46.0%にのぼります。
転職理由となった際の賞与の平均額は38.2万円でした。
同じ調査の回答者が受け取った前年夏の賞与は平均59.6万円ですから、平均を20万円あまり下回るあたりが、転職の引き金になりやすいラインだったことになります。
ちなみに、このことは企業側もよく分かっています。
調査元のマイナビも、賞与支給のタイミングは企業にとって離職リスクの高まる時期だと指摘しています。
支給後に動くことは、隠すほどのことでも、責められることでもない。労使双方が織り込み済みの、季節の風物詩に近い現象です。
賞与は、人を辞めさせもするし、引き留めもする
賞与と転職の関係には、逆向きの力も働いています。
前提として、賞与には期待と現実のギャップがつきものです。
2026年調査では、自分の仕事に見合うと思う理想の賞与額は平均80.2万円で、予想額55.2万円との差は25.0万円。
この差は20代24.8万円、30代24.0万円、40代25.0万円、50代26.0万円と、どの年代でもほぼ一定でした。
「もらった額が理想に届かない」という感覚は、年代を問わず標準装備のようなものです。
正社員全体(18,464人)を対象にしたマイナビの2026年調査では、「賞与が少ない」ことがきっかけで転職を考えたことがある人は42.9%。そのうち58.2%が実際に転職しています。きっかけになった賞与額は平均29.5万円でした。
一方で、「賞与が予想より高かった」ことで転職を思いとどまった人も16.8%おり、その際の賞与額は平均68.0万円です。
転職検討中の人に絞った2025年夏の調査では、この「引き留め」の力はさらに強く表れます。想定より賞与額が高かったことで転職を中止した経験がある人は33.3%。3人に1人です。
さらに、転職を検討している人の51.5%は「夏の賞与額が高かったら転職するのをやめるかもしれない」とも答えており、20代では63.1%にのぼります。辞める気持ちは、支給額次第で揺れ動いているわけです。
興味深いのは、お金以外でも人は思いとどまるという結果です。
2025年冬の調査では、約8割が「給与・賞与の増額がなくても転職を思いとどまる福利厚生制度がある」と回答しました。内容の上位は「有給休暇の取得促進」や「通勤・住環境の支援」です。
人を動かしているのは賞与額の絶対値ではなく、期待との差と、納得できるかどうかです。
同じ50万円でも、70万円を期待していた人には転職のきっかけになり、40万円を覚悟していた人には引き留めになります。だとすれば、次に考えるべきは「自分の納得感は何で決まっているのか」です。
納得感を決めていたのは、金額よりフィードバックでした
マイナビの2026年調査には、この問いのヒントになる分析があります。
前年の夏の賞与額に「納得している」人は全体の51.0%。年代別では20代が61.3%と最も高く、年代が上がるほど納得感は下がっていきます。
そして、納得している人のうち賞与額へのフィードバック(説明)があった割合は61.0%。納得していない人では27.3%にとどまりました。
そもそも全体で見ると、賞与額へのフィードバックがある人は44.5%(丁寧なフィードバック11.7%と簡易的なフィードバック32.8%の合計)にすぎません。
半数以上の人は、額の理由を何も説明されないまま、明細だけを受け取っています。
相関分析でも、納得感と賞与額の相関係数が0.166だったのに対し、納得感とフィードバック有無の相関係数は0.416。
納得感と強く結びついていたのは、金額そのものではなく、「なぜこの額なのか」が説明されているかどうかでした。
ちなみに企業側を見ると、76.7%がフィードバックの重要性を認識している一方で、ルールとして整備している割合は48.7%にとどまります。説明のない会社は、残念ながら珍しくありません。
ここで一度、自分のモヤモヤを切り分けてみてください。不満の正体が「額そのもの」なのか、「なぜこの額なのか誰も説明してくれないこと」なのかで、打ち手は変わります。
前者なら、賞与水準の高い業種・会社への移動が選択肢になります。後者なら、次の会社選びで見るべきは額面だけではなく、評価や賞与の決まり方を説明する文化があるかどうかです。面接で評価制度について質問することは、その確認にもなります。
「賞与が理由」を、面接でどう伝えるか
賞与への不満は転職理由として多数派である一方、面接で伝えるときには言い方の設計が必要です。待遇への不満をそのまま口にすると、「条件が合わなければまた辞める人かもしれない」という印象につながりやすいためです。
ポイントは、過去への不満としてではなく、次に求める環境として語り直すことです。
NG例:「賞与が少なく、頑張っても報われないと感じたので辞めようと思いました」
OK例:「成果や貢献が評価と処遇にきちんと反映される環境で、より高い目標に挑戦したいと考えました」
嘘をつく必要はありません。同じ事実でも、視線を過去の会社への批判ではなく、これからの働き方に向けるだけで、伝わり方は大きく変わります。
先ほど切り分けた「額の不満か、説明のなさへの不満か」は、ここでも活きます。
説明のなさが本質なら、「評価基準が明確な環境で力を発揮したい」という前向きな軸として語れますし、面接の逆質問で評価制度やフィードバックの仕組みを尋ねる、自然な理由にもなります。
「もらってから辞める」の実務
「もらってから動く」と決めたら、実務として押さえておきたい点があります。法律や規程に関わる部分は会社ごとに異なるため、ここでは一般論として整理します。
就業規則・賃金規程の賞与の定めを確認する。「支給日に在籍していること」を支給の条件とする会社が多いとされ、支給日前に退職すると支給されないことがあります
賞与の査定期間(対象期間)を確認する。夏の賞与は前年秋から春ごろの働きが対象になっていることが多く、「もらってから辞める」は、査定済みの分を受け取ってから進む形になります
退職を切り出すタイミングを設計する。法律上、期間の定めのない雇用は原則2週間前の申し出で退職できると解されていますが、就業規則で1〜2ヶ月前の申し出を定める会社が多く、引き継ぎを考えると余裕を持った申し出が現実的です
順序としては、賞与を受け取ってから退職を申し出て、就業規則の予告期間と引き継ぎ期間を確保しながら退職日を決めていく流れが一般的です。支給後は同じタイミングで退職を申し出る人が重なりやすい時期でもあるため、引き継ぎの計画を自分から示せると、話がこじれにくくなります。
なお、支給前に退職の意思を伝えた場合の扱いは、会社の規程や運用によって差があります。動き出す前に、就業規則の賞与の項目だけでも確認しておくと安心です。
待つ時間を、準備の時間に変える
ここまでのデータから、見えてくることがあります。転職を考えている人の半数以上が「もらってから動く」を選ぶということは、支給後には、同じ判断をした人たちが一斉に動き出すということです。
つまり差がつくのは、支給を待っている「動けないように見える時間」の使い方です。
支給を待つ間にできる準備は、求人への応募だけではありません。先にやっておきたいのは、これまでの経歴の棚卸しと、職務経歴書の準備です。書類は応募の直前に慌てて作ると、実績の抜け漏れや浅い表現になりがちで、転職準備の中で一番時間を取られる工程でもあります。
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支給日を待つ時間に書類だけ仕上げておけば、ボーナスを受け取った日から応募に踏み出せる状態になります。
もう一つ、この時期ならではの準備があります。賞与にあわせて査定面談や評価コメントを受け取ったなら、それも棚卸しの材料になります。会社が何を評価し、何を評価しなかったかは、自分の強みと不満の正体を映す記録だからです。捨てずに、書類づくりと会社選びの軸に活かしてください。
これは夏に限った話ではありません。「冬のボーナスまで待つ」と決めた人なら、支給までの数ヶ月がそのまま準備期間になります。待つこと自体は損ではなく、準備しないまま待つことだけが機会損失です。
次の会社の「賞与」をどう確かめるか
最後に、転職先の賞与の見方です。ここには少し困った構造があります。
マイナビの2025年夏の調査では、転職先を選ぶ際に賞与金額を「重要な情報」と捉えている人は68.6%。ところが、選考時に賞与について「質問しづらい」と感じている人は73.0%にのぼります。
重要なのに、聞きにくい。このギャップを埋めるには、聞かなくても確認できる材料を知っておくことです。
求人票の賞与欄は、「年2回(昨年実績◯ヶ月分)」のように実績の月数が書かれているかを見る。実績を明記できる会社は、支給の裏付けを示せている会社です
「賞与:業績連動」「業績による」とだけ書かれていて実績の記載がない場合は、支給実績を確認したい項目としてメモしておく。記載がないこと自体が、確認すべきサインです
相場観として、同調査では転職先に求める賞与の最低水準は「約2ヶ月分」が最多(30.0%)でした
業種の構造も踏まえる。先ほどの産業別データの通り、賞与水準は業種によって大きく違います。個人の頑張りだけでは埋まらない差があることを前提に会社を見ると、判断を誤りにくくなります
内定後は、労働条件通知書やオファー面談で、賞与の算定方法や支給実績を確認する。この段階での確認は失礼にはあたりません
求人サイトのGate〈ゲート〉でも、賞与を含む待遇を確認しながら求人を探せます。
まとめ
賞与と転職の関係を、データで整理してきました。
ニュースの「平均100万円」は大手112社の妥結額の話で、全国の実態は支給事業所平均42万6,337円。そもそも約4分の1の事業所では夏の賞与が出ておらず、賞与の額は業種と規模の構造で大きく決まっています。
その中で、転職を考える人の半数以上が「もらってから動く」を選び、賞与は人を辞めさせもすれば、引き留めもします。そして納得感を決めていたのは、金額よりも説明の有無でした。
「もらってから辞めよう」と思ったなら、それは多数派の合理的な判断です。
あとは、支給を待つ時間を準備に変えられるかどうか。モヤモヤを「額の問題か、説明の問題か、構造の問題か」に切り分けて、次の環境を選ぶ目に変えていってください。
よくある質問
Q. ボーナスをもらってすぐ辞めるのは非常識ですか?
非常識ではありません。賞与は一般に、対象期間の勤務への報償や賃金の後払いとしての性質を含むとされ、マイナビの調査でも転職検討中の正社員の58.3%が「夏の賞与をもらってから転職する予定」と答えています。受け取ってから次に進むのは、ごく一般的な行動です。
Q. 退職を伝えたらボーナスを減らされることはありますか?
会社の規程や運用によって扱いが分かれるため、一概には言えません。支給日在籍を支給の条件とする規程や、支給前の申し出が査定に影響する運用の会社もあります。まずは就業規則・賃金規程の賞与の定めを確認するのが確実です。
Q. 退職は何ヶ月前に伝えるのがよいですか?
法律上は、期間の定めのない雇用の場合、原則2週間前の申し出で退職できると解されています。ただし就業規則で1〜2ヶ月前の申し出を求める会社が多く、引き継ぎや有給消化を考えると、1〜3ヶ月前を目安に余裕を持って伝えるのが現実的です。
Q. 夏のボーナスの平均額はいくらですか?
集計によって大きく異なります。2026年夏は、経団連の大手企業集計(第1回・112社)で平均100万8,706円でした。一方、厚生労働省の統計では2025年夏の支給事業所平均が42万6,337円、マイナビの正社員1.8万人調査では2026年夏の予想額が平均55.2万円です。自分の額は、規模や業種が近い水準と比べるのが現実的です。
Q. 冬のボーナスまで待ってから転職した方がいいですか?
金額や査定期間によっては、待つ判断も十分合理的です。マイナビの調査では、冬も転職検討者の2人に1人が支給後の転職を予定しています。ただし待つと決めた場合も、書類の準備や情報収集は先に進めておくと、支給後すぐに動けます。
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出典
2026年夏季賞与・一時金 大手企業業種別妥結状況[第1回集計](一般社団法人日本経済団体連合会・2026年7月2日/原則従業員500人以上の主要23業種大手248社のうち集計112社)
毎月勤労統計調査 令和7年9月分結果速報及び令和7年夏季賞与の結果(厚生労働省・2025年11月/事業所規模5人以上)
夏季賞与の支給状況(労働政策研究・研修機構『ビジネス・レーバー・トレンド』・2026年1・2月号)
【正社員1.8万人に聞いた】2026年夏ボーナスに関する調査(マイナビ・2026年6月1日/20〜50代正社員18,464人・企業849件)
【2025年夏ボーナス調査】夏ボーナスと転職の関係性について(マイナビ・2025年6月5日/転職活動中または予定の20〜50代正社員1,366人)
【2025年冬ボーナス調査】冬ボーナスと転職の関係性について(マイナビ・2025年11月27日/転職活動中または予定の20〜50代正社員)
