「男性の育児休業取得率、はじめて5割を超える」。
2026年の夏、こんな見出しのニュースを目にした人は多いのではないでしょうか。数字は50.9%。数年前まで2割にも届いていなかったことを思えば、大きな変化です。
ただ、こうしたニュースで示されるのは「取得率」という一つの数字だけです。この数字が高くなったことは事実として、では実際に、いまの男性育休はどうなっているのか。取得率だけを見ていても、その実態はほとんど見えてきません。
この記事では、話題になった取得率の数字を出発点に、その裏で何が起きているのかを、厚生労働省の調査データそのものから丁寧に見ていきます。会社選びの小手先のテクニックではなく、いまの男性育休の現在地を、解像度高く知ってもらうことが狙いです。
「50.9%」という数字が意味すること
まず、話題になった数字そのものを確認します。
厚生労働省の令和7年度雇用均等基本調査によると、配偶者が出産した男性のうち、育児休業を取得した人の割合は50.9%でした。前の年度が40.5%だったので、1年で10.4ポイントの上昇です。男性の取得率が5割を超えたのは、この調査で初めてのことです。ちなみに、女性の取得率は88.3%です。
この数年の伸び方は、かなり急でした。
男性の取得率は、2022年度の約17%から、3年で50.9%まで上がっています。
2022年度が17.13%、2023年度が30.1%、2024年度が40.5%、そして2025年度が50.9%。3年でおよそ3倍です。ここまで短期間に伸びた背景には、制度の見直しがあります。
一つは、2022年4月から始まった、個別の周知と意向確認の義務化です。配偶者の出産を会社に伝えた男性に対して、会社が育休制度を説明し、取る意思があるかを確認することが求められるようになりました。二つ目は、2022年10月に新設された産後パパ育休(出生時育児休業)です。子の出生後8週間以内に、通常の育休とは別に取得できる仕組みです。三つ目は、2023年4月に始まった取得率の公表義務です。大企業を対象に始まり、2025年4月には対象が従業員300人を超える企業へと広がりました。
実際、こうした個別の周知や意向確認を行っている事業所は、いまでは76.9%にのぼります。
制度が後押しし、数字が伸びた。ここまでは前進の話です。
ただ、取得率という数字は「取ったか、取っていないか」しか映しません。どれくらいの期間取ったのか、どんな会社で取れたのかは、この数字の外にあります。ここからが、この記事の本題です。
取得率だけでは見えない「期間」
取得率の裏で最初に見ておきたいのが、取得した期間です。
同じ調査で、育休から復職した男性の取得期間を見ると、次のようになっています。5日未満が6.8%、5日から2週間未満が14.1%、2週間から1か月未満が28.0%、1か月から3か月未満が30.3%。最も多いのは1か月から3か月未満ですが、それより短い層を足すと、別の景色が見えてきます。
男性の育休は、およそ半分が1か月未満、およそ2割が2週間未満です。
2週間未満というのは、出産の入院期間に、退院後の数日を足したくらいの長さです。1か月未満なら、産後の回復期の前半に寄り添う程度です。取得率が5割を超えたといっても、その中身の多くは、比較的短い期間の取得だということになります。
女性と比べると、この差は際立ちます。
女性の育休で最も多いのは12か月から18か月未満で31.4%、次いで10か月から12か月未満が28.7%です。多くの女性が1年前後取っているのに対し、男性は1か月未満が半分。同じ「育休を取った」という言葉でも、日数の桁が違います。
ここで大事なのは、期間が短いことの良し悪しを判断することではありません。収入面の事情や、職場を長く空けにくい事情など、期間には人それぞれの背景があります。押さえておきたいのは、取得率が上がった次の論点は「期間」にある、という事実です。取得率がこの先100%に近づいたとしても、どれくらいの期間取れるのかは、また別の問題として残り続けます。
育休中のお金は、どうなるのか
期間の話とあわせて見ておきたいのが、お金の面です。育休を取るとき、多くの人が気にするのが「その間の収入はどうなるのか」だからです。
育児休業を取ると、雇用保険から育児休業給付金が支払われます。金額は、休業前の賃金のおよそ67%です。育休の開始から半年を過ぎると50%に下がりますが、この給付には税金がかからず、育休中は社会保険料も免除されるため、67%でも手取りで見ると8割ほどが残る計算になります。
さらに、2025年4月から新しい給付が加わりました。
両親がともに一定期間の育休を取ると、最大28日間、手取りがほぼ減らない仕組みができました。
これは出生後休業支援給付金という制度です。父母がそれぞれ14日以上の育休を取るなどの条件を満たすと、子の出生後の一定期間について、育児休業給付にさらに上乗せがあり、給付率は賃金の80%になります。非課税で社会保険料も免除される点を合わせると、厚生労働省は手取りベースで「約10割」と説明しています。休業前の賃金が高い一部の人は上限にかかることもありますが、多くの人は手取りがほとんど減りません。
ここで、先ほどの取得期間の話とつながります。手取りがほぼ減らない対象は、最大28日、つまりおよそ4週間です。男性の取得期間で「1か月未満」が約半分を占めていたことを思い出すと、この給付の設計と、実際の取得のされ方が、近い形になっていることが見えてきます。収入を大きく減らさずに取れる範囲で、まず取ってみる。いまの男性育休には、そうした側面もあると考えられます。
短い育休は、中途半端なのか
ここで、少し見方を変えてみます。
男性の育休は約半分が1か月未満だと聞くと、「その程度なら取っても意味がないのでは」「長く取らないと本気とは言えない」と感じる人もいるかもしれません。数日から2週間ほどの育休を、中途半端なものとして見る空気は、まだ根強くあります。
けれど、先ほどの給付の設計と重ねると、その見方は少し揺らぎます。
手取りがほぼ減らないのは最大28日、つまりおよそ4週間です。短期間の取得は、制度が想定した範囲にきちんと収まっています。
長く取れば取るほど収入は減っていきますが、短期間であれば家計への影響を抑えつつ、産後の最も手のかかる時期に家庭にいることができます。出産直後の数週間は、母体の回復と、慣れない育児の負担が最も重なる時期です。そこに、たとえ2週間でも、もう一人の大人が家庭にいるかどうかは、家庭の落ち着きに小さくない差を生むと考えられます。
短いから中途半端、という見方は、育休を「長さで測る」発想から来ています。けれど本来大事なのは、いちばん必要な時期に、必要なだけ関われるかどうかです。1か月未満という数字は、本気度の低さではなく、限られた条件の中で家庭を支える現実的な選び方の表れ、と見ることもできます。
「取れる会社」の広がりと、残る格差
次に、会社側の状況です。そもそも育休を取れる制度が、どれくらいの会社に整っているのかを見てみます。
育児休業制度の規定がある事業所の割合は、従業員5人以上で84.0%でした。前々回にあたる令和3年度の79.6%から上昇しています。制度としては、多くの会社に広がってきたと言えます。
ただ、会社の規模で見ると、差が残っています。
従業員500人以上の事業所では制度がある割合が100.0%、100人から499人で99.8%と、大きな会社ではほぼ行き渡っています。一方、30人から99人では95.6%、5人から29人では81.3%でした。小さな会社ほど、制度が整っていない割合が高くなります。
産後パパ育休に限ると、差はさらに広がります。
産後パパ育休の規定がある事業所は、5人から29人の規模では66.2%にとどまります。
小規模な会社では、3社に1社は、産後パパ育休の仕組みがまだない計算です。加えて、育休を取りやすくするための環境整備、たとえば研修や相談窓口の設置について、「いずれも行っていない」と答えた事業所が36.9%ありました。制度が就業規則にあることと、実際に取りやすい雰囲気があることは、別の話だということが、この数字からもうかがえます。
同じ「育休あり」でも、制度の中身と職場の準備には、まだ幅があるということです。
正社員と、それ以外で分かれる取得率
ここまでの取得率は、雇用形態をまとめた数字でした。働き方の違いで分けて見ると、また別の差が見えてきます。
有期契約で働く人の育休取得率を見ると、男性は40.4%でした。前の年度の33.2%から上がってはいるものの、男性全体の50.9%と比べると、10ポイント以上低い水準です。女性も、有期契約では74.8%で、女性全体の88.3%を下回ります。
契約社員や派遣など、期間の定めのある働き方では、育休の取りやすさがまだ一段低いのが実態です。
かつては、有期契約で働く人が育休を取るには、一定期間以上勤めていることなどの条件がありました。その要件は2022年4月に緩和され、取得率も上向いています。ただ、正社員との差はまだ残っています。同じ会社の中でも、雇用形態によって育休の現実は違う、ということです。
「見える化」はどこまで進んだか
では、こうした会社ごとの実態は、外から見えるようになっているのでしょうか。
先ほど触れたとおり、男性の育休取得率の公表は、大企業を対象に義務づけられ、対象が広がってきました。実際に取得率を公表している事業所の割合は26.2%で、令和5年度の20.2%から上昇しています。
これも、会社の規模によって大きく違います。
従業員500人以上では82.3%が公表しているのに対し、100人から499人では58.5%、30人から99人では29.3%、5人から29人では24.2%でした。大きな会社では8割超が数字を出している一方、小規模な会社ではまだ4社に1社ほどです。
社会全体で実態が見えるようになってきたのは、まだ大企業を中心とした段階です。
言い換えれば、これから就職や転職を考える人が、応募先の実際の取得状況を数字で確認できるのは、いまのところ規模の大きな会社が中心だということです。社会全体の「見える化」は、進みつつあるものの、道半ばの段階にあります。
育休の「その後」を支える制度
育休は、あくまで出産と育児の入り口の時期を支える制度です。仕事と育児を続けていくうえでは、復帰したあとの働き方を支える制度のほうが、長い目では効いてきます。ここも見ておきます。
3歳までの子を育てる人に向けた制度の導入状況を見ると、短時間勤務制度がある事業所は74.0%、残業を免除する所定外労働の制限が61.6%、始業・終業時刻の繰上げ・繰下げが56.3%でした。一方で、テレワークなどの制度がある事業所は16.1%にとどまります。
時短勤務は多くの会社に広がった一方、在宅で働ける制度はまだ2割に届きません。
育休を取れるかどうかだけでなく、復帰したあとに、短く働けるのか、残業を避けられるのか、在宅を選べるのか。両立を続けやすいかどうかは、こうした復帰後の制度の有無で大きく変わります。育休の取得率という一点だけでなく、その前後の線まで見て初めて、両立できる環境かどうかが見えてきます。
数字が示す、定着への変化
最後に、取得率以外の数字から見える、前向きな変化にも触れておきます。
一つは、復職率です。育休から復職する予定だった男性のうち、実際に復職した人の割合は98.1%でした。育休を取ったことで職場を離れてしまう、ということは、少なくとも数字の上ではほとんど起きていません。育休が、辞めるための入り口ではなく、働き続けるための制度として機能していることがうかがえます。
もう一つは、取り方の多様化です。
育休を分割して取った男性を見ると、1回が78.6%、2回が18.6%でした。出産直後にまず取り、その後もう一度取る、といった柔軟な取り方も広がりつつあります。産後パパ育休を使って育休を取った男性の割合も、育休を取った男性のうち58.3%を占めています。
取得率が5割を超えたいま、論点は「取るか取らないか」から、「どれくらい、どのように取るか」へと移りつつあります。これが、数字の全体像から見える、いまの男性育休の現在地です。
「取るか」から「どう取るか」へ
こうして数字の中身まで見てくると、育休をめぐる問いそのものが、変わりつつあることに気づきます。
取得率が5割を超え、男性が育休を取ること自体は、特別なことではなくなってきました。もちろん会社による差は残りますが、「取るか、取らないか」という段階は、少しずつ過去のものになりつつあります。
次に問われるのは、取るかどうかではなく、どう取り、そのあとをどう続けるか、です。
出産直後にまとめて取るのか、時期を分けて二度取るのか。育休の分割取得が男性でも2割近くまで広がっているのは、その工夫が始まっているしるしです。そして育休そのもの以上に、復帰したあとに時短や在宅を使いながら、育児と仕事をどう続けていくか。長い目で家庭を支えるのは、むしろこちらの設計です。
育児への関わりは、出産直後の数週間だけで終わるものではありません。子どもが育つ数年のあいだ、どう関わり続けられるか。それは、その家庭が長く落ち着いていられるかどうかにも関わってきます。育休を「取って終わり」の一点ではなく、復帰後まで含めた線でとらえること。この視点の切り替えが、いまの働き方には求められています。
まとめ
男性の育休取得率が5割を超えたことは、事実として大きな前進です。ただ、取得率という一つの数字だけを見ても、実態はつかめません。
取得期間は、およそ半分が1か月未満で、1年前後が多い女性とは日数の桁が違います。2025年に手取りがほぼ減らない給付が最大28日分できたことも、この短さと無関係ではなさそうです。制度が整った会社は広がったものの、小規模な会社や有期契約では、取りやすさに差が残ります。取得率を公表している会社も、まだ大企業が中心です。一方で、復職率は98.1%と高く、時短勤務など復帰後を支える制度も広がりつつあります。
見出しの数字を鵜呑みにせず、その中身まで確かめる。そうして見えてくるのは、育休はもう「取るか取らないか」で語る段階ではなく、どう取り、復帰後までどう続けるか、という段階に入りつつある、ということです。短い取得も、いちばん必要な時期に家庭を支える現実的な形と見ることができます。数字の中身まで見るこの姿勢は、育休に限らず、働き方やこれからのキャリアを考えるときの土台になります。
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よくある質問
Q. 取得率50.9%は、男性の2人に1人が育休を取っているということですか?
おおむね、そう読めます。この数字は、配偶者が出産した男性のうち、育児休業を取得した人の割合です。ただし、取得率が高いことと、長く取れることは別です。実際の取得期間は約半分が1か月未満で、数字が示すのはあくまで「取ったかどうか」である点は押さえておきたいところです。
Q. なぜここ数年で、男性の取得率が急に伸びたのですか?
制度の見直しが続いたためとみられます。2022年4月に会社から本人への個別の周知と意向確認が義務化され、同年10月に産後パパ育休が新設されました。さらに2023年4月からは取得率の公表が大企業に義務づけられ、2025年4月には対象が従業員300人超の企業へ広がっています。
Q. 男性の育休は、どのくらいの期間取る人が多いのですか?
最も多いのは1か月から3か月未満で30.3%ですが、それより短い層も多く、1か月未満がおよそ半分、2週間未満がおよそ2割を占めます。女性は12か月から18か月未満が最も多く、1年前後が中心です。同じ育休でも、男女で期間の傾向は大きく異なります。
Q. 中小企業では、育休は取りにくいのでしょうか?
制度の整備状況には規模差があります。育休制度の規定がある事業所は、従業員5人から29人で81.3%と大企業より低く、産後パパ育休では66.2%にとどまります。取得率を公表している割合も小規模な会社ほど低めです。ただし、いずれの数字も年々上昇しており、整備は進んでいます。
Q. 非正規で働いていても、育休は取れますか?
取れます。以前あった、一定期間以上勤めていることといった要件は2022年4月に緩和され、有期契約で働く人も取得しやすくなりました。実際、有期契約の男性の取得率は40.4%まで上がっています。ただし正社員に比べるとまだ低めで、雇用形態による差は残っているのが現状です。
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出典
雇用均等基本調査(厚生労働省・令和7年度/2026年7月公表・事業所調査 結果概要)
出生後休業支援給付金・育児休業給付の内容(厚生労働省)
