大手企業で働きながら、ベンチャーやスタートアップの求人が気になっている。新しいサービスを自分の手で育てる仕事に惹かれる一方で、いざ考え始めると「せっかく大手に入ったのに、もったいない」という声が頭をよぎる。家族や同僚に話したら、同じことを言われるかもしれない。そんなふうに、興味と不安の間で立ち止まっている人は少なくないはずです。
この記事では、データをもとにスタートアップへの転職がいまどう変わっているかを確かめたうえで、大手から移ると何が変わるのか、そして入る前に何を確かめておけば後悔を減らせるのかを整理します。
スタートアップへの転職は、ここ数年で大きく増えている
まず、いま何が起きているかを数字で見てみます。
リクルートが転職支援サービスのデータを分析した調査(2024年9月公表)では、スタートアップへの転職者数は、2015年度を1とすると2023年度には3.1倍になりました。同じ期間にスタートアップの求人数は6.8倍に増えています。求人の伸びに転職者の伸びが追いついていないほど、スタートアップは人を求めているということです。
年代別に見ると、20〜30代の転職者は2.7倍、40歳以上は7.1倍でした。若い人だけが飛び込む世界というイメージは、すでに実態とずれ始めています。
提示される年収の水準も上がっている
「ベンチャーに行くと年収が大きく下がる」というイメージも、少しずつ変わってきています。同じ調査では、スタートアップへの転職で提示された年収が400万円未満だった人の割合は、2015年度の67.4%から2023年度には41.5%へ、25.9ポイント下がりました。一方で、400万円以上600万円未満は15.2ポイント、600万円以上800万円未満は6.7ポイント増えています。
もちろん、これは転職者全体の傾向で、大手から移った人の年収がどう変わったかを示すものではありません。ただ、「スタートアップ=低い年収」とひとくくりにできる時代ではなくなっていることは確かです。
スタートアップへの転職は、一部の人の特別な選択ではなくなりつつあります。
外から見たイメージと、中で働く人の実感は違う
興味はあっても、多くの人が気にするのは「安定しているのか」「待遇はどうなのか」という点でしょう。
フォースタートアップスが一都三県のホワイトカラー5,061人に行った調査(2026年2月)では、スタートアップで働いた経験がある人とない人で、働く環境のイメージを比べています。
経営が安定している:経験のない人14.2% / 経験者33.5%
福利厚生が充実している:経験のない人19.0% / 経験者39.6%
給与の水準が高い:経験のない人27.2% / 経験者40.5%
ワークライフバランスが取れている:経験のない人25.7% / 経験者33.4%
どの項目も、実際に働いたことがある人のほうが高く評価しています。外から見ている人ほど、待遇や安定性を厳しく見積もっている傾向があるということです。
同じ調査では、スタートアップ業界について「知っている」と答えた人は、経験者の38.3%に対し、経験のない人は10.0%でした。スタートアップの情報に触れる機会も、経験者47.2%、経験のない人16.9%と大きな差があります。
不安の一部は、実態を知らないことから来ているのかもしれません。ただし、ここで示されているのはあくまでイメージの差で、すべての会社が安定していて待遇が良いという意味ではありません。会社ごとの差が大きいことは、後のセクションで改めて触れます。
「ベンチャーは不安定で待遇が悪い」というイメージは、実際に働く人の実感とは少しずれています。
大手からベンチャーに移ると、何が変わるのか
では、大手からベンチャーやスタートアップに移ると、働き方はどう変わるのでしょうか。会社の規模や段階によって違いはありますが、よく挙がる変化を整理します。
任される仕事の範囲が広がる
大手企業では、仕事が細かく分かれていて、自分の担当範囲がはっきりしていることが多いはずです。ベンチャーでは人数が限られるため、一人が受け持つ範囲が広くなりがちです。
営業として入っても、提案資料づくりから価格の検討、顧客の声を開発に伝えるところまで関わる、といったことは珍しくありません。担当の外にある仕事を自分から拾っていく動き方が求められる一方で、事業全体を見渡せる経験が早い段階で積めます。
仕組みがまだ整っていないことも多い
大手では当たり前にあった研修制度、業務マニュアル、社内の手続きの流れが、ベンチャーではまだ用意されていないことがあります。
困ったときに調べれば答えがある環境から、答えがなければ自分たちで作る環境に変わる、と考えるとイメージしやすいかもしれません。ここを「整っていない」と感じるか、「自分で作れる」と感じるかで、働きやすさの感じ方は大きく変わります。
決まるまでが速い
意思決定にかかわる人が少ないため、提案から実行までが速い傾向があります。大手で何段階もの承認を経ていた人ほど、このスピードの違いを強く感じるはずです。
その分、方針が変わるのも速くなります。昨日決まったことが、状況に合わせて翌週には変わることもあります。変化に合わせて動き直せるかどうかも、相性を分けるポイントです。
評価のされ方が変わる
年次や在籍年数よりも、事業にどれだけ貢献したかで評価される場面が増えます。成果が見えやすい分、若いうちから大きな役割を任されることもあります。
一方で、評価制度そのものがまだ固まっていない会社もあります。何をすれば評価されるのか、入る前に確かめておくと安心です。
大手で積んだ経験は、ベンチャーでも生きる
「大手で働いてきた自分は、ベンチャーでは通用しないのではないか」と心配する人もいるでしょう。けれど、大手で当たり前のようにやってきたことが、ベンチャーでは強みになる場面が少なくありません。
たとえば、次のような経験です。
業務の流れを整え、誰がやっても回る仕組みにしてきた経験
大企業の顧客や取引先と、手順を踏んで話を進めてきた経験
法務・経理・情報管理など、ルールに沿って仕事を進めてきた経験
人数の多いチームや部署をまたいで、調整しながら物事を前に進めてきた経験
ベンチャーは、会社が大きくなるにつれて「仕組みを作れる人」「大企業と取引できる人」を必要とするようになります。大手の進め方を知っていることは、事業が次の段階に進むときに価値を持ちます。
採用の現場でも、大手出身の人に期待されるのは、ゼロから何かを生み出す力だけではありません。整った環境で身につけた進め方を、まだ整っていない環境に持ち込めるかどうかが見られています。
大手の経験は、ベンチャーで手放すものではなく、持ち込んで生かすものです。
入る前に確かめておきたいこと
ここまで見てきたように、スタートアップへの転職は珍しい選択ではなくなり、働く人の実感も外からのイメージより前向きです。それでも、会社ごとの差が大きいのがベンチャーの特徴です。後悔を減らすために、入る前に確かめておきたい点をまとめます。
会社がいまどの段階にいるか
同じ「スタートアップ」でも、サービスを作り始めたばかりの会社と、上場を目前にした会社では、働き方も求められる役割もまったく違います。
資金をどの段階まで集めているか、事業はすでに売上が立っているか、社員は何人くらいか。こうした会社の段階によって、自分がどれだけ幅広い仕事を受け持つことになるか、どれだけ仕組みが整っているかが変わります。会社の公式発表や報道で確認できることも多いので、面接の前に一度調べておくと話が具体的になります。
自分に任される役割
ベンチャーの求人は、仕事内容が幅広く書かれていることがあります。入社してから「思っていた仕事と違った」とならないよう、最初の半年から1年で何を任されるのか、誰と一緒に進めるのかを面接で確かめておきましょう。
担当の範囲が広いこと自体は、経験を積む機会でもあります。大切なのは、広いことを知ったうえで入るかどうかです。
年収の内訳とストックオプション
年収は総額だけでなく、内訳まで確かめます。基本給と賞与の割合、固定残業代が含まれているかどうか、昇給の仕組みはどうなっているかで、実際の手取りや今後の伸び方は変わります。
ベンチャーでは、年収とは別にストックオプション(あらかじめ決められた価格で自社の株を買える権利)が提示されることもあります。会社が上場したり買収されたりしたときに大きな価値になる可能性がある一方で、そうならなければ価値が出ないこともあります。退職したときの扱いも会社ごとに決まっているため、条件は書面で確認しておくと安心です。大手と比べるときは、退職金や住宅手当などの福利厚生も含めて考えると、見落としが減ります。
一緒に働く人との相性
人数が少ない会社では、経営陣や上司との距離が近く、その人たちの考え方が働き方に直接影響します。面接は会社に見られる場であると同時に、自分が会社を見る場でもあります。
経営陣がどんな考えで事業を進めているか、自分が一緒に働く人はどんな人か。可能であれば、選考の途中で現場の社員と話す機会をもらえないか相談してみるのもひとつの方法です。
ベンチャーは会社ごとの差が大きいからこそ、入る前に確かめた分だけ後悔は減らせます。
「なぜ大手を出て、なぜこの会社なのか」を言葉にしておく
大手からベンチャーに応募すると、面接ではほぼ必ず、なぜ安定した環境を離れるのかを聞かれます。採用する側にとっては、入社後に「思っていたのと違った」とすぐに辞めてしまわないかを確かめたい質問でもあります。
ここで「成長したいから」「裁量がほしいから」だけで終わってしまうと、どのベンチャーにも当てはまる答えになり、相手には響きにくくなります。伝わる志望動機にするには、次の3つをつなげて話せるようにしておくことが大切です。
大手でどんな経験を積み、何ができるようになったか
いまの環境では、なぜ次にやりたいことが実現しにくいのか
その会社のどこに、自分のやりたいことと重なる部分があるのか
この3つがつながると、「大手を出ること」が逃げではなく、経験を生かすための前向きな選択として伝わります。会社の段階や事業の中身を調べておくと、3つ目に具体性が出てきます。
ただ、自分の考えを相手に伝わる言葉にするのは、意外と難しい作業です。Talentier〈タレンティア〉が提供しているAI履歴書・職務経歴書作成サービスのPath〈パス〉は、職務経歴書だけでなく志望動機の作成もアシストします。採用実務の経験を持つコンサルタントが監修していて、完全無料です。大手での経験を整理しながら、応募する会社に合わせた志望動機の下書きを作るところから使えます。
求人票に載らない情報をどう集めるか
ベンチャーの転職でいちばん難しいのは、会社の実態が外から見えにくいことかもしれません。資金の状況や組織の雰囲気、実際の働き方は、求人票にはほとんど載っていません。
情報を集める方法は、いくつか組み合わせるのがおすすめです。
会社の公式発表や代表者のインタビュー記事で、事業の方針と会社の段階を確かめる
求人サイトで同じ会社や似た段階の会社の求人を見比べ、求められている役割と年収の相場をつかむ
選考の中で、現場の社員と話す機会がないか相談する
ベンチャーへの紹介実績がある転職エージェントに、外からは見えにくい情報を聞いてみる
Talentier〈タレンティア〉の求人サイト、Gate〈ゲート〉でも、さまざまな規模の会社の求人を見比べることができます。気になる会社がまだなくても、どんな役割がどんな条件で募集されているかを眺めるだけで、自分が移った場合のイメージがつかみやすくなります。
まとめ
大手からベンチャー・スタートアップへの転職は、2015年度からの8年で大きく増え、提示される年収の水準も上がってきました。外から見たイメージより、実際に働く人のほうが待遇や安定性を前向きに評価している傾向もあります。
この記事のポイントを振り返ります。
スタートアップへの転職者は2015年度から2023年度で3.1倍、求人数は6.8倍に増えた
安定性や待遇のイメージは、実際に働いた経験がある人のほうが高い
移ると、任される範囲の広さ、仕組みの整い方、意思決定の速さ、評価のされ方が変わる
大手で身につけた仕組みづくりや調整の経験は、ベンチャーでも生きる
会社の段階、任される役割、年収の内訳、一緒に働く人を入る前に確かめる
次の一歩としては、まず気になる会社や求人をいくつか見比べてみることをおすすめします。そのうえで、「なぜ大手を出て、なぜこの会社なのか」を一度言葉にしてみると、自分にとってベンチャーが合う選択かどうかが見えやすくなります。
よくある質問
Q. 大手からベンチャーに転職すると、年収は下がりますか?
会社の段階や職種によって大きく異なり、下がる場合も上がる場合もあります。スタートアップへの転職で提示される年収の水準は、ここ数年で上がってきています。総額だけでなく、基本給・賞与・固定残業代の内訳や、ストックオプションの有無と条件まで確かめて比べることが大切です。
Q. 大手からベンチャーへの転職は何歳まで可能ですか?
年齢による明確な線はありません。スタートアップへの転職者は40歳以上でも大きく増えていて、経験を生かして事業の成長段階を支える役割で迎えられるケースもあります。年齢よりも、これまでの経験がその会社のどの課題に役立つかを説明できるかが問われます。
Q. ベンチャーに転職して後悔するのはどんなときですか?
入社前に思い描いていた仕事や環境と、実際の役割や会社の段階が大きく違ったときに、後悔につながりやすいと考えられます。任される役割、会社の段階、評価の仕組みを入る前に確かめておくことで、こうしたずれは減らせます。
Q. 家族に「大手を辞めるのはもったいない」と反対されたら、どう説明すればいいですか?
年収や働き方の変化を、内訳まで具体的に示すと話が進みやすくなります。会社の段階や資金の状況、なぜその会社を選ぶのかを自分の言葉で説明できると、漠然とした不安を和らげやすくなります。「なぜ大手を出て、なぜこの会社なのか」を整理しておくことは、面接だけでなく家族への説明にも役立ちます。
関連サービス
Talentier〈タレンティア〉:はたらく全ての人を支援するサービス
Path〈パス〉:AIで履歴書・職務経歴書を作成
Gate〈ゲート〉:求人サイト
Insight〈インサイト〉:キャリア診断
Journal〈ジャーナル〉:キャリアメディア
出典
スタートアップへの転職、2015年度比で3.1倍に増加 40歳以上の転職者数の伸びが顕著。転職時の年収は上昇傾向(株式会社リクルート・2024年9月17日/リクルートエージェントの求人・転職者データ、2015〜2023年度)
スタートアップ企業に関する意識調査(フォースタートアップス株式会社・2026年5月13日/一都三県在住の18〜59歳ホワイトカラー・n=5,061)
