「今は転職しやすいらしい」。ニュースやSNSでそう聞いて、いざ動いてみたら、思ったより求人が見つからない。あるいは逆に、想像以上に声がかかる。
同じ時期に転職活動をしているのに、人によって体感がまるで違う――。実はこれ、気のせいではありません。
「転職のしやすさ」は、景気や時期だけでなく、職種によって大きく変わります。同じ「売り手市場」という言葉の中に、求人が有り余っている職種と、一つの枠を大勢で奪い合う職種が同居しているのです。
この記事では、最新のデータで「自分の職種は今どのくらい動きやすいのか」を確かめ、その相場をどう戦い方に変えるかまでを、順番に見ていきます。
「転職しやすい時代」は、半分本当で半分ウソ
まず、市場全体の温度感を確認します。
転職サービスのdodaが公表している「転職求人倍率」は、2026年8月時点で2.86倍でした。これは、転職希望者1人に対して中途採用の求人が約2.86件ある、という意味です。前年の同じ月より高く、全体としては求人が求職を上回る、いわゆる売り手寄りの状態が続いています。
一方、厚生労働省が毎月公表している有効求人倍率(令和8年7月・季節調整値)は1.18倍、正社員に限ると1.00倍でした。こちらはハローワークを通じた全国の求人・求職から算出される指標です。
この二つは、数字の大きさがかなり違いますが、どちらかが間違っているわけではありません。dodaは中途の転職市場(doda会員とdodaの求人)を、厚労省はハローワーク経由の全国の雇用を見ており、対象も算出方法も別物です。だから、二つの数字を直接くらべることには意味がありません。それぞれが、別の窓から市場を眺めた景色だと考えてください。
そのうえで共通して言えるのは、全体としては人手を求める側が優勢な状態が続いている、ということです。ただし、この「全体」という言葉には落とし穴があります。
「転職しやすい」という言葉は、あくまで全体の平均であって、あなたの職種の話とは限りません。
職種で、これだけ違う
同じdodaの2026年8月のデータを、職種別に見てみます。数字は、その職種の転職希望者1人あたりに、何件の求人があるかを表します。
エンジニア(IT・通信):12.04倍
エンジニア(機械・電気):6.81倍
専門職(コンサルティング・金融):6.63倍
専門職(建築・不動産):5.95倍
企画・管理:3.28倍
営業:3.14倍
専門職(化学・食品):1.78倍
クリエイター:1.21倍
販売・サービス:0.82倍
事務・アシスタント:0.65倍
専門職(メディカル):0.55倍
全体の2.86倍という数字が、いかに「ならした平均」でしかないかがわかります。最も高いITエンジニアと、最も低い事務・アシスタントの間には、およそ18倍もの開きがあります。
ITや機械・電気のエンジニア、コンサルティング・金融、建築・不動産といった専門職では、人手不足を背景に、1人に対して数件から十数件の求人があります。求職者は文字どおり「選べる」立場です。営業や企画・管理も3倍前後で、求人は潤沢にあります。
一方で、販売・サービスや事務・アシスタントは1倍前後、あるいは1倍を下回ります。倍率が1倍を切るということは、求人よりも転職を希望する人のほうが多い、ということです。同じ時期に転職活動をしていても、これだけ需給が違えば、体感がまるで別物になるのも当然です。
では、なぜここまで差がつくのでしょうか。理由は、需要と供給の両面にあります。
倍率が高い職種は、多くが「求人(需要)は多いのに、担い手(供給)が足りない」状態にあります。ITエンジニアはデジタル化の進展で求人が増え続ける一方、育成が追いつかず慢性的に不足しています。建築・不動産や機械・電気の技術者も、専門性が高く代わりがききにくいぶん、企業どうしの取り合いになりやすい職種です。
反対に倍率が低い職種は、「担い手は多いのに、求人が絞られやすい」構造になりがちです。たとえば事務職は、働きたい人が多く人気がある一方で、定型的な業務が効率化・システム化されやすく、以前ほど多くの人手を必要としなくなってきました。人気で供給が多く、需要は伸びにくい。この二つが重なると、倍率は下がりやすくなります。
大切なのは、この差が職種の「良し悪し」ではなく、あくまで需給のバランスの差だということです。倍率が低い職種にいるからといって、自分の価値が低いわけでは決してありません。
同じ「今」でも、職種によって見えている景色はまったく違います。
数年で、市場の温度感はここまで上がった
いまの数字だけを見ると実感しづらいので、少し時間の流れも振り返ってみます。
dodaの転職求人倍率(全体)は、コロナ禍で落ち込んだ2020年8月には1.18倍でした。それが2026年8月には2.86倍まで戻っています。6年ほどで、求職者1人あたりの求人数がおよそ2.4倍に増えた計算です。中途採用の市場は、全体としては大きく活気づいてきたといえます。
ただし、ここでも職種による差は根強く残っています。ITエンジニアは2021年8月時点ですでに8.09倍と高く、そこからさらに12.04倍まで伸びました。一方の事務・アシスタントは、同じ期間に0.18倍から0.65倍へと上がってはいるものの、依然として1倍には届いていません。
市場全体が良くなっても、職種の序列そのものはあまり変わっていないのです。つまり、「いつ動くか」という時期以上に、「どの職種にいるか」が動きやすさを左右している、ということです。
追い風が吹いても、受けられる帆の大きさは職種によって違います。
「倍率が低い=転職できない」ではない
ここで、数字の読み方を一つ補足させてください。倍率が低い職種の人が、この記事で不安になってしまっては本末転倒だからです。
求人倍率は、あくまで「転職希望者1人あたりの求人の数」です。たとえば0.65倍なら、求職者3人に対して求人が約2件あるイメージです。たしかに余裕はありませんが、求人がゼロなわけではありません。実際、倍率が1倍を切る職種でも、毎月たくさんの人が転職に成功しています。
倍率は、あくまで「難易度の目安」であって、「できる・できない」を分ける線ではありません。倍率が高い職種は比較的選びやすく、低い職種は競争が激しい。そう読むのが正確です。
倍率が低い職種は「転職できない」のではなく、「選ばれる工夫がより必要」なだけです。
だからこそ、自分の職種の相場を知っておくことに意味があります。競争の激しさがわかっていれば、そのぶん準備の力の入れどころも変わってくるからです。
職種だけでなく、業種でも変わる
もう一つの視点として、同じdodaのデータを業種別に見ると、これもはっきりと差があります(2026年8月)。
人材サービス:10.87倍
コンサルティング:9.90倍
IT・通信:7.47倍
建設・不動産:5.53倍
メーカー:3.40倍
金融:2.84倍
メディカル:0.93倍
小売・流通:0.82倍
同じ職種でも、どの業種に身を置くかで求人の厚みは変わります。たとえば同じ営業職でも、IT・通信やコンサルティング業界での求人と、小売業界での求人とでは、数の多さが違います。「職種だけ」でなく「職種と業種の組み合わせ」で見ると、より実態に近い相場感がつかめます。
見る指標で、景色が変わる
もう一つ、数字を鵜呑みにしないために知っておきたいことがあります。それは、「どの調査の、どの区分の数字を見ているか」で、結論が変わることがある、という点です。
たとえば先ほどの一覧で、「専門職(メディカル)」は0.55倍と最も低いグループでした。ここだけを見て「医療系は転職しにくいのか」と早合点すると、実態を見誤ります。これはあくまでdodaの職種区分での数字であって、医療業界全体や、介護・看護といった現場職が不人気という意味ではありません。
実際、介護や看護の職種は、厚生労働省の有効求人倍率で見ると高い水準にあり、人手不足がずっと指摘されています。同じ「医療・介護」でも、どの調査の、どの職種のくくりで見るかによって、高くも低くも見えるのです。
厚労省のハローワークのデータでは、事務職が構造的に低く、専門・技術職や介護・建設が高く出やすい傾向があります。dodaでもITが突出して高く、事務が最も低い点は共通していますが、細かな高低の理由は調査によって異なります。
大事なのは、どの調査の、どの区分の数字を見ているかを確かめることです。
一つの数字だけを見て、自分の職種の将来を決めつけない。複数の窓から眺めて、はじめて実像に近づけます。
高い倍率は、これからも続くとは限らない
数字との付き合い方を、もう一つ。求人倍率は、景気や社会の変化で動く「水物」です。
たとえばdodaの解説では、近年、転職を希望する人が増えている背景として、物価高による収入面の不満に加えて、AIの普及を受けて将来のキャリアに不安を感じ、情報収集を始める人が増えていることが挙げられています。求人を出す企業側だけでなく、転職を考える求職側の動きによっても、倍率は上下します。
いま高い職種が5年後も高いとは限りませんし、その逆もあります。だからこそ、倍率はその時々の「地図」として使いつつ、最終的には自分の経験とやりたいことを軸に選ぶ姿勢が、長い目で見ると効いてきます。
相場を「戦い方」に変える
自分の職種の倍率がわかったら、それを不安の材料ではなく、戦い方を決めるヒントとして使いましょう。倍率の高い・低いで、力を入れるべきポイントは変わります。
倍率が低い職種、たとえば事務や販売・サービスの場合、一つの求人に多くの応募が集まります。ここで差がつくのは、「自分がこれまで何をして、何ができるのか」がどれだけ具体的に伝わるかです。同じ事務職でも、「どんな業務を、どう工夫して、どんな結果を出したか」が言葉になっている人は、書類の段階で一歩抜け出せます。たとえば「経費精算を担当していました」と書くよりも、「請求書処理の手順を見直し、月末の残業時間を減らした」と書けたほうが、読み手に伝わる強さはまるで違います。
その職務経歴書づくりを助ける道具として、Talentier〈タレンティア〉が提供しているAI履歴書・職務経歴書作成サービスのPath〈パス〉があります。これまでの業務を箇条書きで入力すると、採用の現場で見られるポイントを踏まえた文章に整えてくれます。競争が激しい職種ほど、この「言語化」が効いてきます。完全無料で使えます。
一方、倍率が高い職種、たとえばITエンジニアやコンサル・金融の専門職なら、あなたは「選べる」立場にいます。求人が多いぶん、勢いで決めてしまうと、入社後に「思っていたのと違った」となりがちです。だからこそ、自分が何を大事にしたいのかという「軸」を先に持っておくと、豊富な選択肢の中から本当に合う会社を選べます。自分の価値観の傾向を確かめたいときは、Talentier〈タレンティア〉の自己分析サービス、Insight〈インサイト〉が役に立ちます。
軸が定まったら、Talentier〈タレンティア〉の求人サイト、Gate〈ゲート〉などで、実際の求人を「自分の基準に合うか」で見ていきましょう。
なお、地域によっても倍率は変わります。同じ2026年8月のdodaのデータでは、関東が3.63倍、中部が3.00倍、関西が2.38倍と、都市圏ほど求人が厚い傾向があります。もし自分の職種と地域の組み合わせで求人が薄いと感じたら、リモートワーク可の求人に広げる、対象エリアを広げるといった選択肢も検討する価値があります。
職種の需給は自分では変えられませんが、「選ばれ方」と「選び方」は変えられます。
まとめ:まずは、自分の職種の相場を知ることから
最後に、押さえておきたいことを振り返ります。
中途市場は全体では売り手寄りだが、動きやすさは職種で大きく違う
ITエンジニアと事務職では、求人倍率に約18倍の差がある(2026年8月・doda)
倍率が低い職種でも転職は起きている。低い=できない、ではない
「どの調査の、どの区分か」で数字の見え方は変わる。一つの数字で決めつけない
倍率が低い職種は「選ばれる工夫」、高い職種は「選ぶ軸」が効く
「今は転職しやすいのか」という問いに、ひとつの答えはありません。答えは、あなたの職種と地域によって変わります。
だからこそ、まずは自分の職種の相場を一度確かめてみてください。そのうえで、倍率が低いなら職務経歴書を磨き、高いなら選ぶ軸を定める。相場を知ることは、不安になるためではなく、次の一歩を的確に踏み出すためにあります。
よくある質問
Q. 自分の職種の求人倍率は、どこで見られますか?
dodaなどの転職サービスが、職種別の求人倍率を毎月公表しています。厚生労働省の有効求人倍率でも職業別の傾向がわかります。ただし調査ごとに対象や職種の区分、算出方法が違うため、一つの数字だけで判断せず、複数を見比べるのがおすすめです。
Q. 倍率が1倍を下回る職種は、転職をあきらめたほうがいいですか?
いいえ。倍率が低い職種でも、毎月多くの人が転職しています。倍率は難易度の目安であって、可能・不可能を分けるものではありません。競争が激しいぶん、職務経歴書や面接で「自分の強み」を具体的に伝える工夫が、より効いてきます。
Q. 倍率が高い職種なら、誰でも受かるのですか?
いいえ。倍率が高いのは「求人(選択肢)が多い」ということであって、選考の基準が下がるわけではありません。求人が多いと勢いで決めてしまいがちなので、むしろ「自分の軸で選ぶ」意識が大切になります。
Q. 今の職種は倍率が低いので、倍率の高い職種に変えたほうが有利ですか?
倍率の高さは追い風になりますが、未経験の職種への転職は、経験者とは別の評価軸で見られます。倍率だけで飛び込むのではなく、これまでの経験が活かせるか、学び直しが必要かも含めて慎重に検討しましょう。まずは「今の自分の職種」の相場を起点に考えるのが基本です。
Q. 有効求人倍率とdodaの求人倍率は、どちらが正しいのですか?
どちらも正しく、見ている対象が違うだけです。中途の転職市場の肌感をつかみたいならdodaなどの転職求人倍率、全国の雇用全体の動きを見たいなら厚生労働省の有効求人倍率、という使い分けが向いています。
関連サービス
Talentier〈タレンティア〉:はたらく全ての人を支援するサービス
Path〈パス〉:AIで履歴書・職務経歴書を作成
Gate〈ゲート〉:求人サイト
Insight〈インサイト〉:キャリア診断
Journal〈ジャーナル〉:キャリアメディア
出典
転職求人倍率レポート(2026年8月)(doda・パーソルキャリア/2026年9月17日発表/職種別・地域別の転職求人倍率)
一般職業紹介状況(令和8年7月分)(厚生労働省/有効求人倍率・季節調整値)
