【AIと働く時代 シリーズ第2回】
第1回では、AIが「聞けば答える道具」から「仕事を任せられる同僚」に変わり始めている、という話をしました。
読みながら、こう感じた人がいるかもしれません。
「下調べ、資料のたたき台、データ入力、報告書……。それ、自分の仕事のほとんどでは?」
毎日の仕事を思い返して、AIの得意分野と自分の業務がかなり重なっている。
そのことに薄々気づいて、不安になっている人に向けて、今回は書きます。
先に結論をお伝えします。
あなたの職業は、おそらく消えません。ただし、仕事の中身は確実に入れ替わります。
そしてこれからのキャリアで大事になるのは、「どの職業を選ぶか」よりも、「その仕事の中で、人間に残る側の経験をどれだけ積めるか」です。
順を追って説明します。
消えるのは「職業」ではなく、仕事の中の一部のタスク
まず、不安の正体を正確にしておきます。
AI開発企業のAnthropicは、自社のAIが実際にどんな仕事に使われているかを、米労働省の職業データベースと照合して分析しています(Anthropic Economic Index)。
そこで分かったのは、職業が丸ごと自動化されている証拠は見当たらない、という事実です。
AIの利用は「この職業を置き換える」という形ではなく、あらゆる職業の中の個別のタスクに分散して広がっていました。
一方で、浸透のスピードは速い。
担当タスクの4分の1以上でAIが使われている職業は、2025年2月時点の36%から、2026年3月のレポートでは約49%まで広がっています。
つまりこういうことです。
「事務職が消える」「営業が消える」という職業単位の変化は起きていない。
けれど、事務職の中の、営業の中の、一部のタスクがAI側に移る変化は、半数の職業ですでに始まっている。
だから「自分の職業は安全か」という問いには、あまり意味がありません。
考えるべきは、「自分の仕事の中で、どの部分が移り、どの部分が残るのか」です。
あなたの仕事の中で、AIに移る部分と残る部分
自分の仕事を、一度タスクに分解してみてください。
たとえば営業なら、こんな束になっているはずです。
・訪問先の下調べ、リスト整備
・提案書のたたき台づくり
・商談本番
・価格や納期の交渉
・受注後の社内調整、事務処理
・週次の報告書作成
・既存顧客との関係維持
事務職なら、データ入力・転記、定型書類の作成、問い合わせの一次対応といった束の中に、イレギュラー対応の判断、部署間の調整、業務の仕組みの改善が混ざっているでしょう。
このうちAI側に移っていくのは、下調べ・たたき台・入力・転記・定型作成・報告書といった、手順が決まっていて繰り返しの多い部分です。
実は、働く人自身もそれを望んでいます。
スタンフォード大学が2025年に公表した研究では、米国の104職種・1,500人の労働者に、自分が担当する844のタスクひとつずつについて「AIエージェントに任せたいか」を尋ねました。
結果、46.1%のタスクで、担当者本人が「任せたい」と前向きに回答しています。理由の1位は「価値の高い仕事に時間を使えるようになるから」(69.4%)でした。
では、人間に残るのはどこか。
同じ研究は、人間の関与が強く求められるタスクに共通するスキルも分析しています。浮かび上がったのは、対人のコミュニケーションと調整、組織やリソースの運営、意思決定、品質の見極めでした。
逆に、データ分析や情報整理といった情報処理系のスキルは、今は高い給与に結びついているにもかかわらず、「人間でなければならない度合い」が低い側に位置づけられています。
先ほどの束でいえば、商談、交渉、イレギュラーの判断、社内外の調整、そして「AIが作ったものの品質に責任を持つこと」。
ここが残る側です。
あなたの今の仕事は、移る側と残る側、どちらのタスクが多いでしょうか。
その比率こそが、職業名よりもずっと正確な、あなたの現在地です。
これからの市場価値は、「何の職業か」より「何を担っていたか」で決まる
ここからが、今回いちばん伝えたいことです。
仕事の中身がタスク単位で入れ替わっていくなら、キャリアの価値の測られ方も変わります。
「営業を5年」「経理を10年」という職業名と年数の組み合わせは、その中身が移る側のタスク中心だったのか、残る側のタスク中心だったのかを語ってくれないからです。
同じ「営業5年」でも、リスト作成と定型フォローが中心だった5年と、価格交渉やこじれた案件の立て直しを担った5年では、これからの市場での評価は分かれていきます。
前者はまさにAIが引き受けつつある領域で、後者は当面、人間にしか任せられない領域だからです。
これは若手に限った話ではありません。
30代・40代で「経験年数は長いが、振り返ると定型業務が大半だった」という人こそ、早めにこの視点を持つ意味があります。年数の長さが、そのまま強みとして通用しにくくなっていくからです。
逆に言えば、希望もあります。
市場価値を上げるために職業を変える必要は、必ずしもない。今の職業のまま、仕事の中での立ち位置を「残る側」に寄せていけばいいのです。
今の仕事で、「残る側」の経験を取りにいく
では具体的に何をするか。
転職の前に、今の職場でできることから挙げます。
第一に、判断する役を引き受けることです。
AIやツールが作った資料・数字・文面を、最後に確認して「これでいく」と決める役割。地味に見えますが、これは品質への責任という、残る側の中核タスクです。作る側から確認して決める側へ、少しずつ重心を移してください。
第二に、調整が発生する仕事に手を挙げることです。
部署間の板挟み、顧客との折衝、関係者が多くて面倒な案件。避けたくなる仕事ほど、対人・調整という残る側の経験が詰まっています。
第三に、自分の業務の「なぜ」を言えるようにしておくことです。
なぜこの手順なのか、なぜこの判断をしたのか。理由を説明できる人は、AIに作業を任せたあとも監督役として必要とされます。説明できない作業は、そのままAIに渡って終わります。
そしてもうひとつ。
職場でAIやエージェントの導入が始まっているなら、避けるのではなく、任せて監督する経験を先に積んでおくことです。この経験自体が、次の転職市場で語れる実績になります(この点は第3回と第5回で詳しく扱います)。
転職先を選ぶときは、職種名ではなく「仕事の中身」を見る
転職を考えている人は、求人の見方も変えてみてください。
まず、求人票の業務内容欄です。
「資料作成、データ集計、レポート作成」のように、移る側のタスクの羅列で終わっている求人なのか。「〜の判断」「〜との折衝」「〜の品質管理」「〜の改善」のように、残る側のタスクが含まれているのか。同じ職種名でも、束の中身はまったく違います。
次に、面接で聞けることがあります。
「この業務のうち、すでにAIやツールに任せている部分はありますか」「入社後、どこまで自分の判断で進められますか」。
この質問への答えで、その職場でこれから積める経験の質がかなり見えます。定型作業を人手で回し続けている職場は、一見仕事が安定して見えて、実は移る側の経験しか積めないリスクを抱えています。
第1回で見たとおり、エージェントを本格導入している企業はまだ2割程度です。
だからこそ、導入が進む職場で「AIに任せて、人間は判断と調整に集中する」働き方を経験できるかどうかは、これからの数年で差がつくポイントになります。
そして応募の場面では、自分の経歴を職業名ではなくタスクの解像度で語ることです。
採用の現場で書類を見ていても、評価されるのは「営業をしていました」ではなく、何をどう進め、どこで判断し、何の品質に責任を持っていたかが書かれた経歴です。
自分の仕事をタスクの束として言語化する練習には、職務経歴書づくりを使うのが近道です。
私たちが運営するTalentier Pathは、経歴を箇条書きで入力すると、AIが職務経歴書の形に仕上げるサービスです。採用実務の経験者が監修しており、完全無料で使えます。
書き上がったものを眺めると、自分の経験のうち「残る側」がどこにあるかが客観的に見えてきます。
まとめ:職業名ではなく、担っているものを見る
今回の内容をまとめます。
消えるのは職業ではなく、職業の中の一部のタスク。ただしその入れ替わりは、すでに約半数の職業で始まっている
AI側に移るのは、下調べ・入力・定型作成などの繰り返し部分。働く人自身も、こうしたタスクの多くを「任せたい」と考えている
人間に残るのは、対人・調整・判断・品質への責任。これからの市場価値は「何の職業か」ではなく「仕事の中で何を担っていたか」で測られていく
今の職場では、判断する役・調整が必要な案件・業務の「なぜ」を取りにいく。転職では、職種名ではなく業務内容の中身と、判断の裁量を見る
不安の答えは、職業を変えることではなく、仕事の中での立ち位置を変えることにあります。
そしてそれは、今日の仕事の引き受け方から変えられます。
次回は、この話をもう一歩進めます。
同じようにAIと働いていても、AIの出力に振り回されて疲れていく人と、うまく任せて成果を伸ばす人に分かれ始めています。
その差はスキルというより、仕事の組み立て方にあります。
第3回「AIに使われる人、AIを使いこなす人」でお会いしましょう。
AIと働く時代 シリーズ全5回
第1回 AIエージェントとは何か。「ツール」から「同僚」へ、2026年に起きている変化
第2回 AIに任せる仕事、人間に残る仕事(本記事)
リンク・出典
・Talentier Path(AIで履歴書・職務経歴書を作成/完全無料)
・Introducing the Anthropic Economic Index(Anthropic・2025年2月)
・Anthropic Economic Index report(Anthropic・2026年3月)
・Future of Work with AI Agents: Auditing Automation and Augmentation Potential across the U.S. Workforce(Stanford SALT Lab/Stanford Digital Economy Lab・2025年6月/米国の労働者1,500人・104職種・844タスク)
